田園2016年8月号 巻頭言

田園2016年8月号 巻頭言

 

平和旬間を迎えて思うこと

協力司祭トマス小平正寿神父

 

フランシスコの平和のための祈りの起源

フランシスコの平和のための祈りは、十三世紀にイタリア半島で活動したフランシスコ会の創設者、アッシジのフランチェスコ(聖フランシスコ)に由来するとされた祈祷文です。実際にはフランシスコの作ではないですが、そのように広く信じられて愛唱されており、マザー・テレサやョハネ・パウロ2世、マーガレット・サッチヤーなど著名な宗教家や政治家が演説の中で引用や朗誦を行い、公共の場で聴衆と共に唱和するなどして有名です。

平和の祈りが生まれるまでの経緯
今日、広く匪界で「聖フランシスコの平和の折り」として知られる祈祷文は、一九一二年、第一次世界大戦前夜のフランスのカトリック信徒団体「ミサ聖祭連盟(Ligue dela Sainte-Messe)」の発行部8000部の月次報告『(LeClochette)』の中に「ミサにおけるしい祈り(Belle priáre a àfaire pendant la messe)」として無署名で発表されたものが初出です。掲載された報告書の中には、その祈祷文についての一切のコメントは無く、聖フランシスコヘの言及もない。また、一九一九年に廃刊されるこの月次報告書にこの祈祷文が掲載されることはその後は二度と無かった。作者は、団体創設者で月次報告書の編集者であったエステール・ブクレル神父であろうとも推測されているが、それを裏付ける資料は発見されていません。

この祈祷文は、その翌年に『平和の聖母』というノルマンデー地方の信徒団体の年採訪に転載されました。それを読んだノルマン人のスタニスラス・ロシュトロン・グラント侯爵が、この祈祷文を広く世に出すことになります。グランド侯爵は「ョーロッパの祖父」ウイリアム征服王の子孫と称し、『ノルマン通(Souvenir Normand)』という雑誌に依ってヨーロッパ平和統一運動を行っていた。そして一九一五年十二月に『ノルマン通信』の使者を通じてローマ教皇ベネディクト15世に二つの「平和の祈り」と「ノルマンディーの聖母の祈り」を献上しています。この時期は第一次世界大戦下であり、教皇は平和の折りをカトリック世界によびかけていたのです。

この祈祷文は在世フランシスコ会(第3会)の団体においても愛唱されました。
その結果、聖フランシスコの御絵(肖像カード)の裏にこの祈詩文が印刷されたものが作成され、広く配られました。この御絵には、祈祷文が聖フランシスコのものだとは書かれていないのですが、この御絵によって祈祷文の作者が聖フランシスコであるという誤解が生じたのではないかと研究者たちは推測しています。
平和を願いながら、平和の使者聖フランシスコに取次の折りをささげましょう。貧しさを求めて自分を低め、世の富を振り捨てた、平和の使者アシジの聖フランシスコよ、わたしたちの心を目覚めさせ、わたしたちに愛を悟らせてください。
わたしたちの主イエス・キリストによって、アーメン。

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