田園2021年10月号 巻頭言

田園2021年10月号 巻頭言

より良い未来への道

協力司祭 アントニオ金東炫神父

 

教皇フランシスコは昨年10月頒布の回勅「Fratelli Tutti(日本語版:兄弟の皆さん2021年9月発行)」と12月出版の「Let us Dream:The Path to a Better Future(日本語版:コロナの世界を生きる2021年7月発行)」を通してさまざまな危機に直面している今の世界をいかに生きるべきか、そしてパンデミックのなかで苦しむ人々へ心温まるメッセージを発信しました。

 

回勅「Fratelli Tutti」の各チャプターでは
▪利己主義、共通善への無関心、人権侵害と市場論理の支配という「閉ざされた世界の闇」について、▪人々の中におられるキリストの御顔を見つめ、疎外された人々に寄り添い、自分自身を他者に開放する「道端の異邦人」すなわち善きサマリア人になること、▪すべての人の尊厳と権利が守られる「開かれた世界を描き、生み出す」こと、▪戦争や迫害、人身取引などによって故郷を離れた移住民を支える普遍的兄弟愛を実現するために「全世界に開かれた心」を持つこと、▪共通善に奉仕し、貧しい人々と共にいる、貧しい人々の政治という「最良の政治」を目指すこと、▪他者の尊厳を尊重する「対話と社会的友愛」を養うこと、▪終わることのない役目である平和のために、他者への奉仕、和解の追求、相互の発展につながる「新しい出会いの道」に進むこと、▪福音の原則に従って共通善、人間の統合的発展のための配慮は教会の役割であり、諸宗教間の平和の歩みと信教の自由を保障する「世界の兄弟愛のために働く宗教」について語りました。

 

最後に、共通善と各国の利益との間に矛盾が拡大する国際情勢の中で、人々全体の利益という真の連帯を築き、国際社会を「人類」という共存、普遍的兄弟愛へと変容させる「世界平和と共生のための人類の兄弟愛」について述べ、パンデミックの体験から、現状の分析のみならず問題と向き合い、回答を与えることのできる行動を呼び掛けました。

 

そして教皇フランシスコの公式伝記記録者であるオースティン・アイヴァリーとの対話のまとめである「Let us Dream:The Path to a Better Future(日本語版:コロナの世界を生きる)」では、危機の後はより悪くなるか、より良くなるかどちらかであると述べながら、コロナ禍の今こそ、これまでの自己中心的価値観を見直し、より安全で健全な世界を生み出すために行動する時であると強調しました。
教皇は、コロナ禍は現代人にとって試練の時であるが、試練に向き合うとき、自分を犠牲にして困っている人を助ける善きサマリア人たちがあらわれる。そうした人たちの強さ、寛容、創造力は今後の社会をより良いものにする原動力になると語り、今の状況を四旬節に比喩し、長い苦悩の後は復活であり、今の苦しみは絶望ではなく復活を準備し、価値を回復するときであると励ましました。

 

「あなたがたは皆兄弟なのだ」(マタイ23‥8)
教皇のこのメッセージは使徒的勧告「福音の喜び」と回勅「ラウダート・シ」からも見られる福音的回心生活と普遍的兄弟愛というアッシジの聖フランシスコの思想から現代世界へ発信したメッセージと感じられます。

 

今は、パンデミック、ミャンマー、アフガニスタン事態など、さまざまな危機に直面している激動の世界が、創造主のみ旨に従って正しく歩むことがどういうことか、祈りと深い内省とともに明日を準備する時ではないかと思われます。
特に10月は母マリアと共にイエス・キリストによる人類救済の神秘全体を黙想する(聖母マリアへの信心46)ロザリオの祈りの月です。一人の人間は微々たる存在かもしれませんが、祈りという共通の言葉につながっている私たちは決して弱い存在とは言えません。10月、より良い未来、神が見て、良しとされた世界に回復していくように、教会の母であり私たちの母であるマリアと共に心を合わせてお祈りしたいと思います。

 

「人類の父である主よ、私たちの心に、兄弟姉妹への愛を目覚めさせてください。
私たちの心が地上のあらゆる民族と国々に開かれますように。アーメン。」

 

※「田園」10月号(No.702)はこちらからご覧ください。

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