田園2018年7月号 巻頭言
田園2018年7月号 巻頭言
聖体の殉教者タルチシオ
協力司祭 トマス小平正壽神父
昔ローマ帝国では、キリスト信者を迫害していましたが、信者だらけ皆熱心に信仰を守り聖カリストのカタコンブで ミサ聖祭を献げたり祈りを唱えたり聖体を拝領していました。
ある日、司祭はミサが終わると「私たちがこの様に皆集まって天の御父を拝むにつけ、忘れてならないのは牢屋につながれて苦しんでいる兄弟達の事です。この人々に御聖体を送り届ける事が出来たら、彼らはどれほど力付けられ、喜ぶ事でしょうか」
するとこの時、さわやかな声ではっきりと「神父様、どうぞ私をやって下さい!」と叫んだ者がありました。見るとそれは今日ミサで侍者をしたタルチシオという可愛らしい少年です。人々はその勇ましい決心に感勤し、ざわめきましたが、こんな小さい子供にそんな大役を任せるのが不安でもありました。司祭も同じ気持ちなのか「ああ、タルチシオさんですか、だがこの官憲の監視の厳しい中を、牢屋まで持っていくのは並大抵の事ではありませんよ、あなたはそれを知っていますか?」と念を押すよう言いますと、「はい、神父様、私は命にかけてもきっと御聖体を御守りして、誰にも指一本触れさせません。私はまだ子供ですが、そのため、却って人に疑われる事もないでしょう。どうぞ私をやって下さい!」
熱心に頼むけなげなタルチシオに、司祭もついに心を動かされ、彼を使いにやることに決め、ホスチアを布に包んでタルチシオのふところ深く納めさせ、「では気を付けて、どこへも寄らず真直ぐに牢屋に行くのですよ」と言って送り出しました。タルチシオは晴れの大役に心も勇み、カタコンブからアッピア街道へ出て、脇目もふらずローマ市へと急ぎました。
始めは人家も少ない田舎道で、ほとんど人に会いませんでしたが、町の近くへ来ると家も軒を並べ、人通りも激しくなりましたから、タルチシオは人に疑われまいと、気は急ぎながらも、わざとゆっくり歩きました。すると突然「おいタルチシオ、お前はどこへ行くんだ?」と悪童たちがやってきました。タルチシオは悪い所で悪い奴等に遭ったと思わず大事な御聖体の袋を納めた胸の辺りをシッカと両手で抑えました。
ところがそれを目ざとくも見つけた一人は、「おや、それは何だ?出して見せろ」とそばへ寄って来ます。タルチシオは御聖体のイエズス様を御守りしようと一生懸命、両手で胸をかかえながら道の上に坐り込みました。「早く出せ、どうしても見せなきや殴るぞ」「そうだ、殴れ、殴れ、こんな強情な奴は叩き殺してしまえ!」そうののしり騒ぐ声と共に、タルチシオの体には棒切れの乱打が雨霰の様に降りかかって来ました。見るみる彼の頭は傷付き、美しいその顔は真っ赤に染まりました。
タルチシオは胸に御聖体のイエズス様をシッカリと抱き締めたまま、その清いきよい魂は天国の主の許へ飛び去っていたのです。
丁度その時一人の兵隊がやってきて厳しくとがめたので、みんな逃げてしまいました。兵隊は、倒れている少年を見てびっくりしました。同じ教会の信者だったからです。彼はその体を抱き上げ、御聖体と共にカリストのカタコンブヘと運びました。
司祭は一部始終を聞き、この勇ましい少年侍者の信仰に涙を流して感動し、集まった信者たちと折りを捧げ、手厚くその遺骸を葬りました,時は西暦257年の事でありました。
その後少年タルチシオは列聖され「御聖体の殉教者」として全世界の信者の模範となっています。